第2回 入学前のオリエンテーション ～よくわからない空気～

普段は採用面接官として相手を見極める側ですが、今回は女子大学の入学試験で自分が“見られる側”に。英語、一般教養、そして面接の三本勝負は、ビジネスのプレゼン以上に手に汗握る経験でした。

なんとか無事に合格を果たし、届いたのは「オリエンテーションご案内」。いまや大学も“オンボーディング”を重視する時代です。しかも主催は学科長、内容は先輩や同級生とのレクリエーションということで、“動きやすい服装”が指定されていました。

当日はカジュアルな服装で登校。受付で早速、警備員さんに「保護者の方はこちらです」と案内され、「いえ、私が学生です」と答えると、目を丸くされながらも無言で通していただけました。
……先が思いやられます。

会場には時間ギリギリに到着。広い講義室の最後列にそっと着席すると、目の前には約150名の18歳女子たち。
そこには、初めて顔を合わせる同級生同士の緊張と期待が混じった、独特な“空気感”が漂っていました。その空気の中にぽつんと存在する私は、たぶん“教職員”か“関係者”と見なされていた気がします。下手に笑えません。

最初に学科長の挨拶。次に2年生の先輩からレクリエーションについてお話がありました。
新入生が入学してからすぐに友達ができるように先輩たちが企画したチーム対抗のゲームの説明。どうやら“見知らぬ同士でのコミュニケーション活性化”が目的のようです。

説明終了後に講堂に移動。

それにしても、普段見ない光景に目を奪われるばかり。
高下駄のような15〜20cm級ヒールを履いている人には「転ばないで…」と心の中で祈り、
まだ肌寒い3月なのにおへそを出した服の女子には「お腹冷やすと風邪ひくぞ」と、親戚のおばちゃん目線で心配。
さらに、テリジノサウルスのようなカラフルで鋭利な爪には「もし折れたら…想像するだけで痛い！」と全神経が集中。

この空気に溶け込むには、まずは服装とビジュアルがカギだと確信。
「4月から何を着て行こうか…」と、早くも戦略会議が頭の中でスタートしました。

私の配属されたチームに合流した瞬間、18歳女子たちの頭の中に
「？」と「！」が同時に浮かんだ気配を全身で感じました。

というのも、ゲーム中や自己紹介以外では、ほとんど会話に入れない“見えない壁”を実感。
これはいわば、ソーシャルディスタンスならぬジェネレーションディスタンス。厚みが違います。

そして始まった「大縄跳び」チーム戦。
えぇ、私、大縄跳びなんて半世紀近く跳んだ記憶がありません。勇気を出して、四半世紀以上年下の“先輩”に「足をケガしていて跳べません」とお伝えすると、満面の笑みで「では、縄を回すのはいかがですか？」と提案されました。

なぜか私は反射的に「応援を担当させてください」と自ら退いたのですが、
“縄も回せない自分”が目立つことを恐れつつ、すでに存在が十分に目立っていることにも気づき、複雑な心境に。

この日のオリエンテーションでは、頭の中で「自問自答」がフル稼働していた記憶しかありません。

極めつけは「たけのこニョッキ」なる謎のゲーム。
ルールが全くわからぬまま、なぜか高得点をたたき出し、みんなに喜ばれる私。帰宅後に検索してみたところ、「1ニョッキ」「2ニョッキ」…と順番に言いながら手を上げ、タイミングが被るとアウト、という内容でした。運か？ 反射神経か？ いや、奇跡か？

とにもかくにも、“18歳が心から楽しめるゲーム”のノリに乗れず、
「どうすれば“楽しい”を共有できるか？」という新たな課題が増えました。
※これもリスキリングの一環でしょうか。

オリエンテーションが終わるころには、「よくわからない空気」にすっかり気力を削られ、ぐったり。
心の中でつぶやきました。

「これが“社会人大学生”の第一関門か…。リスキリング、なかなか手強い」

このコラムでは、そんな60歳女子大生の学び直しライフを、12回にわたって連載していきます。

リスキリングのヒントが見つかるかもしれません。どうぞお楽しみに。