ITインフラを支えるスペシャリスト IIMヒューマン・ソリューション

  • youtube

RPA全社利用拡大のコツ

btn_pagetop

はじめに

はじめまして。この度、情報システム部門の責任者やデジタル推進を担う皆さま向けに、ITやDXに関するコラム『IT相談ルーム』を執筆させていただくことになりました遠藤将一と申します。このコラムでは、ITやデジタルの利活用に関わる実践的なヒントを、様々な立場の方々からの相談に回答するという形式でお届けします。

さて、早速本題に……といきたいところですが、まずは簡単に私自身のことを紹介させてください。「誰が書いているのか」が気になる方もいらっしゃるかと思いますので。

私はITキャリア30年、前半の14年間はシステムベンダーでシステム開発と営業を担当し、その後は家具SPA企業であるニトリの情報システム部門にて8年間業務に従事してきました。現在はホームセンター企業のDCMでDX戦略統括部長を務めるとともに、システム子会社の代表取締役も兼任しております。「作る・売る立場」と「買う・使う立場」の両面を経験していることが私の強みであり、これらの経験を活かして、皆さまのお役に立つコラムを執筆したいと考えています。

それでは、記念すべき第1回目の相談内容を見ていきましょう。

現在、多くの業務にRPAツールを導入しています。
このツールは高いカスタマイズ性を持ち、特定の業務フローに効果的に活用できておりますが、全社的な業務自動化を目指す中で、運用コストが課題となっています。

また、当社ではMicrosoft 365を利用しているため、コスト削減や業務効率化の観点から、Power Automate for desktop(PAD)への移行を検討しております。
しかしながら、現状のRPAツールで構築した業務フローの移行がどの程度可能なのか、また技術的な問題が生じるか不透明です。
さらに、PADを効果的に活用し運用できる社内人材が不足している状況でもあります。
このような中、移行すべきか否か、また移行に向けての準備や対応策についてアドバイスをいただきたいです。

回答

ご相談者さまの企業では、RPA(WinActorやUiPathなど)をすでに導入し、特定の業務フローに対して効果的に活用できているということから、まずは、社内におけるRPA推進の第一段階は成功しているように見受けられます。素晴らしいですね。

しかし、開発したRPAロボットの本数が増えるにつれ、コストに関する課題が顕在化しており、RPAツールである「Microsoft Power Automate for desktop」(以下、PAD)を効果的に活用できないかとお考えのようです。また、さらなる業務の自動化を進めるうえで、それらを推進する人材についても課題を抱えていらっしゃるようです。

多くの企業においても、作業効率の向上を目的にRPAの全社的な利用を目指していますが、コストや人材不足といった障壁により、最大限活用できている企業は少ないのが現状です。さらに、過去に開発したRPAロボットの保守管理も、利用拡大を拒む一因となっているのではないでしょうか。

回答の前提

PADには無償版と有償版があり、使用できる機能に差があります。今回の相談内容はコスト削減が課題であるため、無償版のPADの利用を前提に回答したいと思います。

RPA利用拡大の課題と方針

RPAの利用拡大を目指すうえで、以下の3つが主な課題となると考えます。
① RPA製品のコスト
② RPAロボットの保守管理
③ RPAロボット作成の人材不足

RPAの利用が広がるにつれ、RPA製品のライセンスなども追加で必要となり、コストも増加していきます。コスト増加の解決策として、無償のRPAツールであるPADを利用したいと考えることは当然理解できます。しかし、有償のRPAツール(WinActorやUiPathなど)と無償のPADは、異なるコンセプトを持つ製品です。それぞれの違いを正しく理解し、適切に導入しなければ、後々の運用で困難が生じる可能性があるため注意が必要です。

RPAの全社導入をコストを抑えつつ推進するためには、RPAの自動化の対象となる業務を軸に、管理方針とRPAツールを適切に選定することが重要になります。
表を使用して説明していきます。

対象業務と管理方針、選定するRPAツール

1.対象業務 業務特性 求める機能 2.管理方針 3.RPAツール
部署業務 部署として行う業務
複数人で同じ作業をしている、作業後に次の作業がある、作業に期限がある、他部署へ連携など
24時間稼働、サーバー実行、バックアップ&リストア、時間指定、トリガー実行、エラー通知等 中央集権型
・IT部門管理
・業務部門管理
有償ツール
WinActor、UiPath等
個人業務 個人に紐づく業務
データ収集、データ加工、メールの仕分けなど
簡単操作 市民開発型
・個人管理
無償ツール
PAD等

表を見ていただくとわかりますが、1.対象業務を「部署業務」と「個人業務」に分け、それぞれの業務特性と求める機能に基づいて 2.管理方針と 3.RPAツールを選定しています。

この「部署業務」と「個人業務」の適切な仕分けが、RPA全社利用の成功の鍵を握るポイントです。

部署業務と中央集権型

部署業務と個人業務を見分けるポイントは、その業務の担当者が体調不良などで休んだ際に、その業務を別の人が代わりに対応する必要があるかどうかです。たとえば、ある業務の完了を待っている「部内の人」や「他部署」が存在する場合、その業務は予定時刻に確実に完了していなければなりません。このような業務は部署業務と考え、「スケジュール実行」や「トリガー実行」に対応した有償のRPA環境を導入することが求められます。

さらに、部署業務を無償ツールであるPADで自動化していた場合、作業を実行しているパソコンが故障すると、業務そのものが停止してしまいます。このようなリスクを防ぐために、重要な業務を実行するRPAロボットは中央集権型でサーバー上に管理し、サーバーの冗長構成や日々のバックアップを整備することが必要です。これにより、システム障害が発生しても業務が止まらない環境を構築できます。

また、部署業務を中央集権型で管理すべき理由として、「業務の内容を知っている人がいなくなる問題」が挙げられます。業務を自動化(システム化)すると、時間の経過とともにその業務に詳しい担当者が減り、結果としてIT部門に保守や修正を依頼するケースが増えてしまいます。この際、IT部門に突然、「重要な業務のロボットだから、今週中に直してほしい」と言われても、即座に対応するのは難しいでしょう。

そのため、初めから中央集権型で管理を行い、RPAロボットに関する要件定義書や設計書を適切に残しておくことが重要です。こうすることで、トラブル発生時や業務変更が必要な際もスムーズに対応が可能となります。

ここで、要件定義書や設計書に関する補足を一つ。RPAやローコード開発ツールの場合、RPAロボットやWEBシステムの作成方法は設定画面や処理フローを見れば理解できることが多いです。しかし、「なぜこの処理をしているのか」「なぜこの順番で実行しているのか」「なぜこの条件を設定しているのか」といった意図については、プログラムの中身を見ただけでは読み取ることができません。したがって、要件定義書や設計書には、「なぜそうしたのか」という背景や理由を明確に記載しておくことが、後に保守を担当するメンバーにとって非常に重要な情報となります。

個人業務とPAD

個人業務の自動化には無償ツールであるMicrosoft Power Automate for desktop(PAD)が最適です。これまで、RPAロボットを開発する際、業務削減によるコストとRPAツールのコストを比較し、投資対効果が見込める業務に絞って自動化を行うことが一般的でした。しかし、無償ツールであればコストを気にすることなく、個人や小規模な業務でも気軽に自動化が可能です。このような小さな効率化の積み重ねによって、企業全体として大きな効果を生む可能性があります。

さらに、個人業務のRPAロボットは各個人が管理することで、IT部門は部署業務の管理に専念でき、運用が効率化されます。

PADの有償版と無償版の機能的な違い

有償版のPADには、スケジュール実行やトリガー実行、プレミアムコネクタ(HTTP接続やSQL Server連携など)といった高度な機能が多数搭載されています。特に、2024年2月にリリースされたPicture-in-Picture機能は、RPAロボットを仮想環境で実行しながら元の画面で別の作業を進められる非常に便利な機能です。この機能は、多くの利用ユーザーから高く評価され、強く求められるものになるでしょう。

自動実行や仮想環境機能は、有償のRPAツール(WinActorやUiPathなど)であればほぼ標準的に搭載されています。そのため、有償版のPADを各利用ユーザーに配布すべきか、それとも中央集権型で管理すべきかは、企業ごとに慎重に検討する必要があります。これは、各企業の状況によって判断が分かれる非常に悩ましい課題と言えます。

判断の際には、ぜひ「部署業務」と「個人業務」という切り口を基に、IT部門が管理すべき業務か、あるいは市民開発としてユーザーに任せるべき業務かを整理し、それを判断軸として活用してみてください。この視点を取り入れることで、RPAツールの適切な運用方針を見出す助けになるはずです。

PADをデジタル人材の育成ツールとして使用する

最後に、「RPAロボット作成の人材不足」について考えてみます。

無償版のPADでも、実際に使用してみると意外と難しいことが分かります。「プログラミング不要」と言われるRPAの開発ですが、実際にはプログラミング的思考力(ゴールまでの最適な手順を考える能力)が求められます。パソコン操作の手順を洗い出し、エラーが発生しないようにステップを設計し、目的を一つのフローとして実現する必要があります。これを達成するには、単にパソコン操作やPADの機能を知っているだけでは不十分です。また、そもそも、現状の仕事に課題感や不満を持っていない人は、RPAで効率化しようという発想自体が生まれにくいものです。

このような背景があるため、社内でデータ分析やAI活用などの教育を行っても、自部署に戻った際に実際の行動に結びつかないことが多いのです。

PADは身近なパソコン作業を手軽に自動化することができます。2ステップや3ステップといった小さな業務でも自動化することで仕事が楽になり、RPAロボットが動作しているのを目にするとちょっとした達成感を得られます。このような小さな成功体験を繰り返すことで、徐々に大きな業務の改善や改革に意識が向いていくのです。

もちろん、データ分析やAI活用の教育も重要ですが、デジタル人材の育成においては、RPAのPADがちょうど良い練習材料になると考えています。IT部門として無償のPADを全社的に配布し、定期的な教育や相談窓口を設けることで、デジタル人材を育成しやすくなるでしょう。また、デジタルセンスのある人材を発掘する良い機会にもなります。こうした観点からも、PADの全社利用にチャレンジする価値は非常に高いと言えるでしょう。

IT部門は社内のデジタル活用を「先導し、支え、全体を底上げする」という非常に重要でとても大変な役割を担っています。ぜひ、お互いに頑張っていきましょう。

PADのライセンスについて

PADには無償版と有償版があり、使用できる機能に差があります。また、Microsoft 365 E3プランなどに付属するPADにも無償版との機能差があるようです。導入をご検討されている場合は、ぜひIIMヒューマン・ソリューションのご担当の方にご相談いただければと思います。

ではまた次のコラムにて。

2025年1月10日 遠藤将一




お問い合わせ
ご相談・お見積りのみのご依頼も、お気軽にお問い合わせください。
03-4333-1111 9:00 ~ 17:45 (土日、祝日を除く)